2016年11月14日

トランプ氏勝利を数字で読み解く・マーケティングへの重要な示唆


トランプ
(出所:AP通信)

<予想を裏切る結果となった米大統領選>

注目されていた米国の大統領選挙は、大方の予想を裏切ってドナルド・トランプ氏の勝利に終わりました。 本記事では、今までの内容とは少し趣向を変え、大統領選挙の結果を分析し、 そこからマーケティングにとっての示唆を引き出してみようと思います。 なお、本内容は、弊社の政治的思想を表すものでも、 トランプ氏の政治的立場を評価するものでもない点についてはご了承ください。

<トランプ氏勝利の決め手となったのは?>

トランプ氏勝利の背景として一般的に言われているのは、 グローバル化による格差の拡大への不満が蓄積しており、 トランプ氏が掲げる米国第一主義や移民流入制限などが、そうした不満の受け皿となったということです。 グローバリズムからローカリズムへの移行のトレンドであり、 今年6月の英国のEU離脱と同じ構図です。

しかしこれはあくまで背景に過ぎません。 これが具体的にどう今回の選挙結果に結びついたのでしょうか? 選挙結果を詳細に見てみると、トランプ氏は、 こうした背景を大統領選挙の勝利に結びつける戦略をとっていた様子がうかがえます。 筆者が着目したのは以下のポイントです。

  • ブルーステート(歴史的に民主党支持に回ることが多かった州)の一部を切り崩したこと
  • スイングステート(大統領選挙のたびに共和党支持と民主党支持が入れ替わる州)の多くで支持を勝ち取ったこと

<大統領選挙の仕組み>

どういうことかを説明する前に、いったん米国大統領選挙の仕組みについておさらいです。 今回行われたのは、各党で候補者を決定する予備選挙・党大会を経た後での、 一般有権者による本選挙であり、ここで実質的に大統領が決まります。 一般投票においては、各州に人口の数などに応じた選挙人が割り振られており、 各州で勝利した候補者がその州が有する選挙人を総取りし、 結果的に 合計選挙人が過半数を超えた候補者が当選 する仕組みとなっています。

アメリカの州は、民主党支持か共和党支持かによって以下の3つのカテゴリに分けることができます。

  1. 共和党支持に回ることが多い州(レッドステートと呼ばれます)
  2. 民主党支持に回ることが多い州(ブルーステートと呼ばれます)
  3. 選挙のたびに共和党支持と民主党支持が入れ替わる傾向のある州(スイングステートと呼ばれます)
今回の本選挙「前」の状況で言えば、選挙人の数は
  1. レッドステート 191
  2. ブルーステート 251
  3. スイングステート 96
となっていました。(オハイオ州はブルーステートよりのスイングステートですが、ここではスイングステートに分類しました)

<選挙結果の分析>

トランプ氏の立場からすると、選挙で勝つための戦略は以下となります。

  1. 共和党の地盤であるレッドステートで着実に勝利すること
  2. ブルーステートの中でも共和党支持に回る可能性のある州を切り崩すこと
  3. スイングステートで勝利すること
さて、実際にはどうだったのでしょうか?今回の選挙の結果を選挙人の数で見てみましょう。
  1. レッドステート191のうち、共和党支持に回ったのは191
  2. ブルーステート251のうち、民主党支持に回ったのは205
  3. スイングステート 民主党28:共和党68

米大統領選挙結果
(出所:ABC)

結果だけ見れば、トランプ氏は上記全ての戦略において成功したことがわかります。 もともと共和党支持に回ることの多かったレッドステートで勝利したのは驚くことではありません。 しかしながら、 もともとブルーステートであった3州(ミシガン州、ペンシルバニア州、ウィスコンシン州)で勝利したこと、 そして スイングステートにおいて優勢であったこと は特筆すべきです。

<リソースの集中投下とマーケティング>

なぜこのような結果になったのでしょうか?これに関して興味深いのは、 トランプ氏はこうした州に重点を置いて選挙活動を行っていた様子が見られることです (例えば、 このUS Newsの記事 や、 こちらのWall Street Journalの記事 などを参考)。

従来はブルーステートでありながら今回は共和党支持に回った ミシガン州、ペンシルバニア州、ウィスコンシン州、そしてブルーステート寄りのスイングステートのオハイオ州などは、 雇用環境が比較的悪かったりするなどして、雇用を奪うと考えられている移民に対する反感が醸成されていたり、 民主党に対する反感がたまっていた可能性があります。 実際、これらの州(ペンシルバニア州を除く)では、2010年以降共和党の知事が選ばれています。 トランプ氏は、こうした状況を踏まえ、 民主党の支持するNAFTA(北米自由貿易協定)がこうした州の製造業を破壊したという主張や、 自身の米国第一主義・移民流入制限・雇用安定など、 受け入られやすい主張・政策を発信 することでこうした州の支持を獲得できたと見られます。

さらに付け加えると、ミシガン州やペンシルバニア州などは、 選挙人がそれぞれ16人、20人と、比較的多くの選挙人が割り振られており、選挙結果に与える影響の大きい州でした。 こうした州にリソースを投下することは、 費用対効果の高い戦術 だったと言えます。

全ての州で勝利する必要はありません。結果的に選挙人の合計で上回っていればいいのです。 そうだとすれば、民主党基盤の強い州に対して無理にアプローチするよりは、 民主党と共和党のはざまで揺れ動いているような州に対して集中的にリソースを投下することは 理にかなった戦略です。

トランプ
(出所:CBC News)

<ビジネスおよびマーケティングへの示唆>

トランプ氏の戦略はビジネスに通ずるものがあります。 上記の戦略をビジネスやマーケティングに置き換えるならば、以下のようになるでしょう。

  • 競争の激しい分野には無理して進出しない
  • 新規顧客を獲得しやすい分野を特定し、リソースを集中的に投下する
  • そうした顧客が何を欲しているのかを把握する
  • そうしたニーズに効果的に訴求するメッセージを発信する
現状の分析と、それを具体的に目標達成に結びつける戦略、 トランプ氏は実業界出身だっただけに、おそらくこうした競争戦略を理解していたのでしょう。 それを選挙に応用したということが、今回の結果の戦略面での理由と言えるかもしれません。